2015年02月15日

進路、とは

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昨年末に入塾した、高校3年生Mくん。
高校での最終三者面談の席で、これまで志望していた工学部からからおおきく転換、公立大学のデザイン科を志望。(しかし本人の中では胸に秘めてきたもののようでした)
2次試験として課せられている『実技』対策のため当塾を訪れ、体験後、入塾を希望してくれました。

美術系ならば、『実技のみを磨けば良い』か?…否。

国公立系大学の場合、センター試験の結果も大きなウェイトを占めます。(※美術系では、全教科でなくセンター試験内から『選択科目』とする学校が多いです)
私立系美大に於いても、学科が『全く必要ない』わけでは勿論、ありません。

独自の学科試験や、センター試験の点数と実技試験の点数を合算し合否を決める『センター利用入試』という形式を設ける学校もあります。
(美術系を擁するすべての学校が、というわけではありません。『実技のみ』あるいは『センターのみ(実技なし)』で合否を決める方式を設けている学校もあります。)

ただ、入学後の学びを考えると…学力・実技力ともに、ある程度は携えた状態で進学される事は望ましいかと考えます。


Mクンは昨年11月の入塾後、学校を終えてから夜遅くまで実技力アップに取組み続け、
点数配分上『とっておきたい』センター試験の準備に不安があると、1月前半は勉学に専念しました。

志望大学はセンター試験の成績配分も大きいため、それはそれでヨシ、ただし、
『描かなかった』期間ぶん、伸び盛りのキミだからこそ、『元に戻す』期間が必要になることは告げていました。画塾に通えないとしても時間を見つけて、対象を観察し手を動かすことは続けておいてね、と。


−明けて1月。
実技の経験不足を補えるほどには芳しくなかったセンター試験の結果を受け、
進路相談の先生に、彼の希望とは別の、デザイン科を有する国立美術系大学を進められました。
…その大学では、『センター試験結果』よりも『実技』に点数配分が高く設定されていたためです。

センター試験結果『のみ』で照会すれば、『安全』…のように見えたのかもしれませんが、その学校の『実技試験』は、内容も様式も、これまで取組んできたものとは全く異なるものであり、
そもそもそこは、本人がこれまで全く意識したことのない大学でした。

先生にその進路変更の提案を受けて悩み、電車に乗り遅れて来塾が遅れそうだとお母様からお電話を頂きました。


自らの夢を語るからには、自らリスクも背負わねばならない。
私は現在の志望大学で貫くことを、すすめました。

すると、『やっぱり』といった雰囲気でふ、と笑ったお母様。
…意外な反応で、正直、戸惑いました。

『それであなたはどうするの?画塾の先生に相談してみなさい』
滅多に電話をかけてこない息子さんからの相談の電話に、そうアドバイスしたところ、
『…画塾の先生は、止めないと思う』と、本人は言ったそうです。

…出会ってからそう日は長くないのですが …わかってらっしゃる。


経験不足を承知で自ら希望を宣言し、励んでいる現時点においては、
彼は『それ』に全力を尽くすべきと、考えたゆえです。



Mくんを迎える準備をしながらも先ほどのやりとりを反芻。今後すべきことは…ウ〜ム…。

…横で黙々とヘルメス胸像のデッサンに取組むKちゃんに、ふと話しかけたくなりました。


彼女は鹿児島市内の普通科高校卒業後、昨年春に当塾へ入塾。
AO入試で女子美術大学のビジュアルデザイン科に合格し、今年の春から美大生となります。

高校3年生の進路選択の際、周囲が受験を当然とする流れの中、あえて受験をせず、4月に画塾の門を叩きました。

見学に訪れ入塾した当初は、経験不足による不安と、
『決めたからには、後には退けないのだ』という強い意志がないまぜの印象でした。

カメラに興味があり、被写体やモチーフとして建造物や鉄塔、電柱に美を感じる彼女。
話を聞くほど内面に秘めてきた情熱を感じ、写真や立体…、様々な体験をさせてきました。

進路を吟味し、心に秘めてきた夢を叶える場として強く惹かれた『女子美術大学』の学校理念や方針に共鳴し、そこでの学びを強く希望。
…努力の結果、そこが次のステージと決まった今だから。

『…高校3年生当時、Kちゃんは、どんな心境だったの?』

聞いてもいいのかな、と思いました。

普段から言葉少ななKちゃん。…少し考え、笑顔でひとこと。

『…すっっごく、イヤでした。』

曖昧ながらも、やりたいことがある。…けれどまだ形にならない。
流されない、流されたくない。でも明言しない(できない)、
孤独なたたかいがあった高校生時代の彼女を、ふわりと感じました。



かつての塾生さんにも、彼女のように『模索期間』を設け熟考した進路に進み、
その先でもまた模索、試行。たたかい…思考、模索…を繰り返している人たちがいます。
みんな、今もなお奮闘中。

求め、掴む。…掴んだ!
…でもそれは『ゴール』ではなく『新たなはじまり』でもあり。

あるいは、学校の『合否』という『わかりやすい』事象として、掴めなかった。
でもそれは決定的な敗北なのか?…否。

『わかりやすい』他者から見るところの『成功』を、その『とき』は掴めど、それは当然、永続的なものではなく。
自らの精神の血肉とならないならば、形骸的なモノにどれだけの価値があるのだろう。

高みを求め続けるのならば。…模索し続ければ。
何らかの『答え』が得られるはず。

…たとえ、当初考えていた『わかりやすい』結果ではなかったとしても。

いつかの記事にも書いたことに重複してしまいますが…私は、そう思います。



塾長のことのあと、新規入塾者様の受け入れを迷っていた頃に出会ったKちゃんは、
昔、彼女と似た進路の選び方をした塾生さんとどこか似た面差しで。
…懐かしいものを感じさせる子でした。

先の自分のためにとアルバイトを続けながら、合格後も画塾に通い続けてくれました。
合格後も『ここ』に通う価値を持ち続けてくれたこと、嬉しかったです。

彼女は2月一杯で卒塾します。レギュラーの旅立ちは寂しいけれど、
自ら考え、もがき掴んだ『道』で、『なにか』を得るであろう彼女と、卒塾生として再び会える日が楽しみです。

ペットボトルの表面に反射した画塾のモチーフ達。


冒頭の画像の正体は、ペットボトルの表面に反射した画塾のモチーフ達。(Kちゃん撮影)







先述の
『自らの夢を語るからには、自らリスクも背負わねばならない』

…この言葉は当然、常に、私自身にも還ってくるものです。
私は、その覚悟のもとに歩んできたつもりです。

なれど、その覚悟も、年を経るごとに、
いかに甘やかなものであったかと恥じたりもします。
でも当時の自分にとってそれは、精一杯のなかで想像しうる『世界』でした。


当時の私と同世代の若者たち、
高校生、浪人生、大学生、社会人…さまざまの中には、
より過酷な状況に於いてもなお、真摯にものづくりに取組む子もいます。
人生を模索している子がいます。


期限なき夢。期限りある人生。

夢を抱え挑み、もがくひと。
身の上に起こる、現実の状況に身動きとれぬひと、…そこから飛び出すひと。
『大人』としての自分の役割を担うひと。
生きる傍らの友人として、創作にいそしむひと。

…そのなかに優劣はなく、一概に、『是』だの『否』だのと、いえないことばかりです。


現在も第一志望の公立大学試験に向け奮闘中のMクン。
同じく公立大学試験に向け、ひた走るSKちゃん。
…結果を待つ子ら。
社会人経験を経て、新たなる旅路に漕ぎ出すmaricaさん。

みな、各人の覚悟のもとに、励み、旅立とうとしています。

私どもはただ、ここに在り、全力でサポートを行うとともに…
自分に課した『覚悟』や『頑張り』に押しつぶされそうになったときの、寄る辺となれたら。
…そう思うのです。



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Posted by いづろ画塾 at 17:40│Comments(0)日々受験塾生
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